2025年3月26日(水)、第5回 横浜未来機構 経営層ミーティングを、横浜市立大学みなとみらいサテライトキャンパス NANA Lv.(ナナレベル)にて開催しました。
当日は、会員企業の経営層を中心に約20名が参加し、企業におけるイノベーションの実践に向けた熱量ある対話が繰り広げられました。
「全員参加型イノベーション」の本質とは?
沖電気工業株式会社 藤原雄彦氏によるキーノートスピーチ
今回のミーティングでは、沖電気工業株式会社 執行役員 藤原雄彦氏をお招きし、「OKIの全員参加型イノベーション」をテーマに講演いただきました。
藤原氏は1987年にOKIに入社。長年、通信事業を中心とした開発に従事し、現在はイノベーション責任者・デジタル責任者・イノベーション事業開発センター長として、社内の文化変革と新規事業の社会実装に向けた取り組みを推進されています。
なぜ「全員参加型」なのか? OKIが見つめた危機感
講演は、日本の競争力の低下と新規事業創出の難しさからスタートしました。
藤原氏は、「イノベーションとは特定の部署や若手に任せきるものではない。現場にこそ本当の課題があり、社員一人ひとりの意識と行動の変革が不可欠」と語ります。
実際、OKIではかつて大口顧客からの受託開発が中心でしたが、キャッシュレス・ペーパーレスの進行により、それらのニーズは激減。受託モデルの限界を経営陣が痛感し、危機感から“全員参加型”のイノベーション体制へと大きく舵を切ったといいます。
ISO56000を軸に、イノベーションの仕組みを構築
その鍵となったのが、国際規格 ISO56000(イノベーション・マネジメントシステム)です。
OKIではこの考え方をベースに、社員が日常的にアイデアを出し、それを事業化につなげるプロセスを全社に展開。プロジェクト単位で終わらせず、「仕組み」として根付かせることに注力しています。
・年間約400件のビジネスアイデアを集約
・社長・執行役員も含む審査体制を構築
・最優秀アイデアには1億円の予算を投下し、事業化を後押し
こうした仕組みにより、全社員が“自分ごと”として新規事業に関われるようになり、「現場が変わる」「行動が変わる」という手応えが社内に広がりつつあるといいます。

トップの覚悟が文化を変える
「仕組みがあっても、社長が本気でなければイノベーションは潰される」と藤原氏は語ります。
実際、OKIの森社長は毎月3~4回、現場の社員10~15人と対話を重ねるなど、トップ自らが現場に関与する姿勢を徹底しています。
さらに、社員のアイデア創出力・実行力を可視化する評価制度も導入予定であり、「イノベーション人材には将来的に処遇面でも差をつけていく」という文化醸成が進められています。
こうしたOKIの全社的な取り組みは、参加企業にとっても実践的かつ刺激的な事例となり、「どこから始めるべきか」という問いに対して具体的なヒントを提供しました。
会員企業によるフリートーキングも活発に
講演後は、横浜未来機構の副会長である井上滋邦氏(AGC株式会社 エグゼクティブ・フェロー)をモデレーターに迎え、参加企業同士によるフリートーキングセッションが行われました。
今回は、藤原氏の講演で示された「全員参加型イノベーション」への共感を起点に、以下のようなテーマについて、具体的かつ実践的な議論が交わされました。
● トップのリーダーシップと現場浸透のギャップをどう埋めるか
参加者から「トップがイノベーションを推進する意志を表明しても、現場に浸透しない」という課題感が共有されました。
これに対し藤原氏は、「現場との距離を縮めるためには、トップ自ら現場に降りていくことが不可欠」と強調。OKIでは、社長が社員と毎月3〜4回、少人数で直接対話を重ねている事例を紹介し、“トップダウン”ではなく“対話型リーダーシップ”の重要性を語りました。
● イノベーションを「一部門任せ」にせず、全社巻き込み型にする工夫
「イノベーションを特定の部門だけに任せてしまう」という悩みに対しては、藤原氏は、「“イノベーション部門だけがやる”という認識を、社内から徹底的に排除することが最初のステップだった」と述べました。
OKIでは、既存事業の改善も、業務改革も、すべて“イノベーション”に位置づけ、全社員が「自分ごと」として取り組める仕掛け(アイデアコンテスト、評価制度)を整備したことが奏功していると紹介しました。
● 新規事業創出に必要な「失敗を許容する文化」の作り方
新しい取り組みには失敗がつきものですが、「失敗を評価する文化が根づかない」という声も上がりました。
藤原氏は、「アイデアコンテストでは、失敗しても次に挑戦できる仕組みをあえて作った」と語り、1回のコンテストで結果が出なかった提案者にも、次回以降に再チャレンジできる機会を保証していることを紹介しました。
また、「失敗したプロセスそのものを社内共有することが、後続の成功に必ずつながる」という考え方も共有され、参加者の多くが深く頷く場面もありました。
● ISO56000の導入可能性と、自社への適用に向けたハードル
最後に、「ISO56000のようなフレームワークを導入することが、かえって形式化・負担になるのではないか」という懸念も議論されました。
これに対して藤原氏は、「認証取得自体が目的ではない。あくまでイノベーション文化を根付かせるための“共通言語”として活用している」と明言しました。
さらに、「完璧な導入を目指すのではなく、できるところから柔軟に取り入れるべき」とのアドバイスを送り、ISO規格を“柔らかく使う”姿勢を強調しました。
● 参加者の声
議論を通じて、「イノベーションは単なる制度やツールの導入ではなく、経営層の本気と現場の覚悟をいかに結びつけるかが問われる取り組みである」という認識が参加者間で共有されました。
また、「互いの成功例・失敗例を率直に持ち寄ることで、企業の枠を越えた学びが得られる」といった前向きな声も多く聞かれました。
今後に向けて
本ミーティングは、イノベーションを単なる掛け声ではなく「現場起点・仕組み化・文化醸成」として実行していくためのヒントと勇気を参加者に提供する機会となりました。
横浜未来機構では、今後も経営層同士のネットワーク構築と実践知の共有を通じ、企業変革を後押しする場を継続的に提供してまいります。