英語での要約は日本語記事に続きます
English summary follows the Japanese article
2025年12月4日、フィンランド国立研究機関VTT(Technical Research Centre of Finland)の研究者2名を招き、都市づくりに関する国際対話セッションが一般社団法人横浜みなとみらい21プレゼンテーションルームで開催されました。横浜未来機構が主催し、(有)ビズテックの企画協力のもと、フィンランドと日本の研究者、行政関係者、学生、企業関係者など多様な背景を持つ参加者が一堂に会し、都市と社会の未来について活発な対話が交わされました。
本セッションの背景と趣旨
横浜未来機構事務局の森が冒頭、「横浜未来機構は、横浜市内のオープンイノベーション推進機関として、未来志向の社会づくりに取り組んでいます。今日は遠くフィンランドから、長年にわたって都市の未来を研究してこられた2名の研究者をお迎えし、貴重な知見を共有いただける機会を持てることを大変光栄に思います」と挨拶しました。
ファシリテーションは横浜国立大学客員教授(有限会社ビズテック)の佐藤氏が担当。セッションは講演、そして質疑応答及びディスカッション、との構成で進められました。
講演① Arho Suominen氏(VTT)「未来志向の重要性」

最初に登壇したArho Suominen氏は、15年間にわたって「フォーサイト(未来予測・先見)」の研究に取り組んできました。同氏が提示したOECDのデータは衝撃的でした。「10年以上先を見据えた計画を立てている組織は、わずか1.2%に過ぎない」。
Arho氏は、馬車から自動車への歴史的転換を例に挙げ、「人は変化の速度を過小評価しがちです。フィンランドの運輸大臣も『世界は急速に変化していると誰もが言うが、同時に自分たちが関心を持っていることは決して変わらないと思い込んでいる』と指摘しています」と語りました。
同氏が強調したのは、「深化(Exploitation)」と「探索(Exploration)」のバランスです。既存の強みを活かし深めながら、同時に未知の領域にも一部のリソースを投じて試行する——この両輪が、未来に備えるための鍵だと言います。
「救命ボートがあると思って安心するのではなく、嵐に耐えられる船を持ち、自ら進む方向を選べるようにすることが重要です」とSuominen氏は力説しました。
講演② Kirsi-Maria Hyytinen氏(VTT)「インパクト・リーダーシップと未来適応型都市」

続いて登壇したKirsi-Maria Hyytinen氏は、VTTで「Future-Proof Societies」研究チームのリーダーを務めています。同氏のチームは、フィンランド国内の都市、地方自治体、省庁と協働し、社会全体を包括的にとらえたシステミックな変革に取り組んでいます。
Kirsi氏が提唱する「インパクト・リーダーシップ」とは、都市が長期目標を設定し、経済成長と住民のウェルビーイング、環境境界の尊重を同時に実現する能力を育むアプローチです。
同氏が詳しく紹介したのが、ヘルシンキ近郊のエスポー市での実践事例です。エスポー市はパンデミックを契機に、経済、社会、環境、文化という4つのサステナビリティ目標を設定しました。そして市の戦略部門と協働し、多面的な指標バスケットを開発。従来の経済・技術偏重の指標から、住民の福祉、教育、健康、交通、環境など、より包括的な視点でのデータ収集と可視化を実現しました。
「重要なのは、質的データと量的データの組み合わせです。既存の行政データを再活用しながら、住民の声や専門家の知見も取り入れ、リアルタイムで都市の変化を把握できるダッシュボードを構築しました」とHyytinen氏は説明しました。
ディスカッション「都市の未来をどう描くか」
講演後、横浜国立大学の松行美保子教授をはじめとする出席者と、VTT研究者との間で活発な議論が展開されました。
未活用データの宝庫——データ利活用の新しい可能性
松行教授は、「横浜のような大都市では、将来の不確実性——例えば大規模地震や津波——にどう備えるべきか。そして、VTTではどのような具体的データを用いているのか」と質問しました。
これに対し、VTTの研究者は、「実は、自治体が既に保有しているデータの多くが未活用なのです」と指摘。例えば、交通監視カメラの映像は当初、警察の交通管理のために設置されましたが、後に都市インフラの維持管理、洪水対策、災害対応など多目的に活用できることが分かった点を挙げ、「異なる部署が保有するデータを統合することで、都市全体の状況をより立体的に把握できるようになります。加えて、住民満足度調査やSNS分析といった質的データも組み合わせることで、数字だけでは見えない市民の声や価値観も捉えられます」と語りました。

組織の慣性をどう突破するか——変革の鍵
「特に公的組織の場合、組織の定型化、硬直化とも言えそうな状況が見られがちで、新しいアプローチの導入は容易ではありません。エスポー市ではどのように変革を実現したのですか?」という切実な質問が寄せられました。
「エスポー市の成功要因は、市長による強いリーダーシップと、パンデミックという外部危機の組み合わせでした。危機は組織を変える強力な触媒になります。加えて、市の戦略部門が問題意識を持ち、経済だけでなく福祉や健康、環境をバランスよく評価する指標体系の必要性を認識していたことも大きかった」と答えました。
また、チリのマガジャネス地方での水素産業振興プロジェクトや、台湾・高雄市でのインフラデータ再活用事例も紹介され、変革には「現地の実務者・リーダーが推進役を担い、多様なステークホルダーを巻き込むこと」が共通して重要だと強調されました。
段階的アプローチと住民参加
さらに、「日本の自治体は人口規模が大きく、合意形成が難しい」という意見に対し、「小さなエリアやテーマから始め、成功事例を可視化して徐々に拡大していく段階的アプローチが有効です」とのコメントも提供されました。
シンガポールの事例では、都市計画の大規模な展示会を開催し、市民が直接計画案を見て意見を述べられる場を設けたことが紹介されました。また、AI技術を活用して「未来の市民像」を仮想的に生成し、様々な層の意見を統合的に分析する試みも報告されました。
また、大都市より小さい、との意味で地方都市における未来志向型の都市計画への応用可能性への新たな動きについても議論が交わされ、こうした国際連携の実践が、横浜における今後の取り組みにも示唆を与え得るもの、との理解を共有しました。

横浜・みなとみらい21地区の未来を考える
セッション終盤では、横浜市の出席者から「みなとみらい地区の30年後を見据えた再開発について、どのように発想すればよいか」という具体的な質問も寄せられました。
VTTの研究者からは、「日本国内だけでなく、海外の複数の未来予測レポートやシナリオを横断的に参照し、それらを統合して横浜固有の仮説を構築することをお勧めします。その上で、市民、企業、専門家を交えたワークショップやダイアログを重ね、共通理解と方向性を形成していくことが重要です」と提案しました。
また、「Future Proofな都市、つまり、未来を想定しそこへの適応が可能となるような都市の実現には、技術だけでなく、人々の価値観、ウェルビーイング、環境との調和を包括的に捉えることが必要です。横浜はその可能性を十分に持っている」と励ましの言葉を送られました。
今後の国際連携に向けて
セッションの最後には、横浜とVTTの今後の連携について前向きな意見交換が行われました。ファシリテーターの佐藤氏は「今日のセッションで得られた知見を、横浜の都市づくりに具体的に活かしていきたい。フィンランドと日本の継続的な対話と協働を進めていきましょう」と締めくくりました。
参加者からは「技術偏重ではなく、人間中心の都市づくりという視点が印象的だった」「データの多目的活用という発想は、すぐにでも取り入れられそう」「長期的視点の欠如が課題だと改めて認識した」といった声が聞かれました。
今回のセッションを通じて、横浜が目指すべき未来の都市像——経済成長と住民のウェルビーイング、環境の持続可能性をバランスよく実現する「Future Proof City」——への道筋が、より具体的に見えてきたと言えるでしょう。
横浜未来機構では、今後もこうした国際的な知見の共有と対話の場を設け、横浜の未来づくりに貢献してまいります。
English Summary
International Dialogue Session on Urban Development with Finnish Researchers
On December 4, 2025, Yokohama Future Organization hosted an international dialogue session titled “SOCIETY AND CITY IN OUR FUTURE – An Exploration with Researchers in Finland” at the Yokohama Minato Mirai 21 Presentation Room. Two leading researchers from VTT Technical Research Centre of Finland shared their expertise on future-oriented urban planning with participants including researchers, government officials, students, and business representatives.
Dr. Arho Suominen (VTT) emphasized the critical importance of long-term foresight, citing OECD data showing that only 1.2% of organizations plan beyond a 10-year horizon. He stressed the need to balance “exploitation” of existing strengths with “exploration” of new possibilities, warning against organizational inertia that leaves cities vulnerable to rapid technological and social changes.
Dr. Kirsi-Maria Hyytinen (VTT) introduced the concept of “Impact Leadership” — an approach helping cities develop capabilities to become “Future Proof” by balancing economic growth, citizen well-being, and environmental sustainability. She presented a detailed case study from Espoo, Finland, where the city developed a comprehensive indicator framework combining quantitative and qualitative data to track progress across economic, social, environmental, and cultural dimensions in the wake of the COVID-19 pandemic.
Key discussion topics included:
Data Utilization Innovation: Repurposing existing municipal data (e.g., traffic cameras for flood management) and creating integrated data lakes
Overcoming Organizational Resistance: The importance of strong leadership commitment combined with external catalysts like crises, plus gradual implementation starting from small pilot projects
Citizen Participation: Methods ranging from large-scale public exhibitions (Singapore example) to AI-generated “future citizen” personas for inclusive decision-making
Multi-indicator Approach: Moving beyond technology and economy-focused metrics to include well-being, environmental boundaries, and cultural values
Professor Mihoko Matsuyuki from Yokohama National University and Yokohama city officials engaged in robust dialogue with VTT researchers about practical application challenges, data sources, and strategies for implementing future-oriented planning in large-scale Japanese municipalities. With a little reference of some on-going discussion with smaller municipality in Japan, the discussion indicated a successful process of international partnerships in urban development research, in form of combination of smaller and bigger cases.
The session concluded with commitments to strengthen ongoing collaboration between Yokohama and Finland, applying these insights to Yokohama’s urban development initiatives including the Minato Mirai district’s long-term renewal planning. Participants recognized the importance of shifting from technology-centric to human-centric approaches in creating sustainable, resilient “Future-Proof Cities” that balance economic vitality, quality of life, and environmental stewardship.
